タイ料理の「ラープ/ลาบ」とは
「ラープ」は、タイ料理の一種であるヤム(和え物)のひとつです。細かく刻んだ肉に調味料で味をつけ、ハーブや野菜と和えて作られます。よく使われる肉には、牛肉、水牛肉、豚肉、鶏肉、アヒル肉、魚などがあり、もち米や生野菜と一緒に食べるのが一般的です。
昔からタイの北部や東北部では、結婚式やお祭りなど特別な機会にラープを作る習慣があります。その際には、大勢で分け合えるよう、豚や牛、水牛などの大型の肉がよく使われます。この習慣は今も受け継がれており、ラープは特別な行事だけでなく、日常の食卓でも親しまれている定番料理となっています。
さらに、「ラープ(ลาบ)」という言葉は、タイ語で「運・幸運」を意味する「ラープ(ลาภ)」と同じ発音ですが、綴りが異なります。そのため、「ラープを食べると幸運が訪れる」と信じられています。
タイのラープは大きく分けて、北部の「ラープ・ヌア(ลาบเหนือ)」と東北部の「ラープ・イーサン(ลาบอีสาน)」の2種類があり、それぞれに加熱調理したものと生のまま食べるものがあります。
ラープ・ヌア/ลาบเหนือ(北部のラープ)の特徴
ラープ・ヌアは、タイ北部の伝統的な料理で、主に新鮮で清潔な生の豚肉、牛肉、水牛の肉を使用します。肉は細かく刻んで叩くことで粘り気を出し、刻んでいる途中で少しずつ生の血を加えます。さらに、茹でた内臓も加え、塩やナンプラーで味付けします。塩気のある味が特徴で、少し辛みはありますが、酸味はなく、ラープ・イーサンのようにライム汁やカオクア/ข้าวคั่ว(炒りもち米)は使いません。
辛みは、一般的な粉唐辛子ではなく、「プリックラープ(พริกลาบ)」という、さまざまなハーブやスパイスをブレンドした特製の香辛料を使用します。中でも「マクウェン/มะแขว่น(山椒のような香りと舌がしびれる辛み)」というスパイスが特徴的で、ピリッとした刺激と独特の香りがラープ・ヌアの風味を際立たせます。苦味を加えたい場合には、「ディー/ดี」(内臓から取れた苦みがある調味料)を使用することもあります。
香りづけに使われるハーブには、パクチー/ผักชี、青ねぎ/ต้นหอม、パクチーファラン/ผักชีฝรั่ง(オオバコエンドロ)、パクペーオ/ผักแพว(ベトナムコリアンダー)、サラネー/สะระแหน่(タイミント)などがあります。
加熱したラープ・ヌアは「ラープ・クア(ลาบคั่ว)」と呼ばれます。これは生のラープを油で炒め、仕上げに揚げたにんにくや赤たまねぎ、ハーブを添えて香りを引き立てます。
さらに、タイ北部では淡水魚を使ったラープも存在しますが、「ラープ・プラ―/ลาบปลา」と言います。ラープ・プラーでは生の血や内臓は使用せず、味付けは肉のラープに近いものとなっています。

ラープ・イーサン/ลาบอีสาน(東北部のラープ)の特徴
ラープ・イーサンには、豚肉、牛肉、魚、鶏肉、アヒル肉などがよく使われます。これらの肉を細かく刻みますが、ラープ・ヌアのように粘り気が出るほど細かくはしません。刻んだ肉や内臓は一度加熱し、ナンプラー、ライム果汁、カオクア/ข้าวคั่ว(炒りもち米)、唐辛子粉などで味付けします。
生のままで場食べる合は、好みに応じて生の血や「ディー/ดี」(内臓から取れた苦みがある調味料)を加えることもあります。
最後に、パクチー/ผักชี、青ねぎ/ต้นหอม、パクチーファラン/ผักชีฝรั่ง(オオバコエンドロ)、パクペーオ/ผักแพว(ベトナムコリアンダー)、サラネー/สะระแหน่(タイミント)、赤玉ねぎなどのハーブを混ぜ合わせて仕上げます。

東北部地方には、ラープと似た料理が他にもいくつかあります。
・ナムトック(น้ำตก)
調理方法は、火を通したラープ・イーサンに似ていますが、主に豚肉や牛肉などの塊肉を使用します。肉を調味料(ナンプラー、ソイソース、砂糖など)に漬けて軽く焼いた後、一口大に切って、ハーブやラープの調味料で和えて仕上げます。・タップワーン(ตับหวาน)
ナムトックに似た料理ですが、豚レバーや牛レバーを使用します。レバーを軽く湯通しした後、ハーブやラープの調味料と和えて味付けします。・ゴイ(ก้อย)
ラープ・イーサンと似た料理で、細かく刻んだ肉ではなくざっくり切った肉を使用します。加熱するものと、生のまま調理するもの両方があります。・ソックレック(ซกเล็ก)
生のラープ・イーサンに似ていますが、より新鮮な生肉、生内臓を粗めに切り、生の血を加えて調理します。火を通さず、苦味のある味付けが特徴で、よりディープな郷土料理として親しまれています。
ラープ・ヌア/ลาบเหนือとラープ・イーサン/ลาบอีสานの違い
・ラープ・ヌアには、ラープ・イーサンで使われるカオクア/ข้าวคั่ว(炒りもち米)やライム果汁は使用しません。
・ラープ・イーサン(加熱されたもの)には、「ディー/ดี」(内臓から取れた苦みがある調味料)や生血は通常使用されません
・ラープ・ヌアに使われる肉は、ラープ・イーサンよりも粘り気が出るまで刻むのが特徴です。
・ラープ・ヌアでは、複数の香辛料をブレンドした専用の唐辛子粉(プリックラープ)を使って味付けしますが、ラープ・イーサンは基本的に粉唐辛子のみで調味します。
・ラープ・ヌア(加熱されたもの)は、味付けした生ラープを油で炒めて仕上げます。一方、ラープ・イーサンでは、最初に肉を加熱してから調味します。
ラープを食べる文化は、タイ北部および東北部に深く根づいており、単なる料理ではなく、その地域の伝統や生活の一部として大切にされています。
タイを訪れる機会があれば、ぜひラープを味わってみてください。ただし、生肉を使った料理は健康上のリスクもあるため、衛生管理のしっかりした信頼できるお店を選ぶことをおすすめします。

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